-------あの日見た光景・・・・





--------ただ一つ・・思い出すのは・・





--------小さな小さな君の姿・・・・・。






       





      『君との出会いは一つの奇跡』











いつもと同じ・・故郷の静まりかえった森の中に入ると・・

今まで張りつめていた緊張が・・スーっとほぐれていった・・・。

・・少し体を休ませなければ歩くことも出来ないだろう・・。

・・思った以上にチャクラも残っていない・・・

・・貰い物の左目は・・・体に合っていないから・・・。



「ふぅ・・ここまで来れば大丈夫・・ってところかなぁ・・。
  ・・少し・・休むか・・・。」



顔を覆う狐の面をそっとはずして・・木の根元へと座り込むと

上から差し込んでくる光に手を差し伸べた・・。

「・・だいぶ・・汚れたねぇ・・・。」

戦場での任務・・・闇の中の世界・・・

この五日間・・見えたものは死体ばかりだったような気さえする・・。


差し上げた手を・・何かを振り払うように乱暴に降ろして・・

カカシは静かに目を閉じた・・・。










・・・・・しばらくすると・・小さな気配がこちらに向かってくるのが感じ取れた。

・・殺気は感じない・・敵じゃないのなら・・どうするかは決まっている。

・・・・・放っておけばいいのだ・・・。


しばらく放っておくと・・

・・小さな気配はそっと手を伸ばして・・自分に触れようとしてきた・・。


「・・・なに・・?」


殺気は感じなくても・・触れられてはいけない。

いつ・・どんなときでも油断は禁物だ・・・。

重い目を開けて・・その気配の主に話しかける・・・。

目の前で・・小さな黄色い頭がビクッと跳ね上がった。

「・・オレになんの用があるの・・・?」

とりあえず用事はなんだ?と訊くと

その小さな子供は大きく手を振って一生懸命に理由を言い始めた。

「あっ・・あのさ!あのさ!お兄ちゃんの髪・・キラキラだってば・・
  そ・・でさ!・・触ってみたくなったからっ・・・・。」

「・・キラキラ・・・?」

この子のいっていることが理解できなくて・・

・・カカシは眉をひそめた・・・。


「・・うん・・お兄ちゃんの髪・・お月様みたいだってばよ・・。」

その黄色頭はニコッと笑いながら言った。


「・・・お前・・名前はなんていうの・・?」

・・このくらいの子供の言っていることはよく分からないな・・。

・・そう思いながらカカシは黄色頭に名をたずねる・・

すると、そいつはちょっと怯えたように・・たどたどしく口を開いた。


「・・オレってば・・うずまき・・・ナルト・・・。」

「・・へぇ・・ナルトねぇ・・。」

ああ・・そっか・・この子は先生の・・・。

なるほど・・髪の色も・・目の色も・・そっくりだねぇ・・・。

・・・それから・・九尾の・・イレモノとなった子・・・。


「・・あのな・・ナルト君・・? お兄さんは君に
     かまってるヒマなんてないんだよね・・。
       悪いけど・・帰ってくれる? 」


・・九尾のイレモノ・・なんていうくだらない理由じゃない・・。

・・この子につき合っているほど・・ヒマじゃないし・・・

・・・なによりオレは・・疲れているんだ・・・。


早く・・その場から・・消えてくれ・・・。


「・・でもさ・・お兄ちゃん・・・。」


泣きそうな笑顔を浮かべて・・自分を見る一人の子供・・。

・・自分の中で・・怒りが少しずつ増していくのが分かった・・。

少しの殺気を込めて・・この子を傷つける言葉を探す・・。


「聞こえなかったの・・・?・・帰れ。」


たいていの子供なら・・これですぐに泣き出して帰っていく・・・

小さな子供に加減をしているとはいえ殺気を向けたのだ・・

耐えられるはずはない・・・。


・・そうだ・・たいていの子供なら・・・・・


・・・だが、ナルトは違った・・・。

少々驚いた感じではあるものの泣こうともせず

ただただ悲しい瞳で自分を見上げるだけ・・・。



・・・なんでだ・・・傷つくような言葉を言っているのに・・

・・・どうしてそんな目で・・オレのことを見るんだ・・・・。




・・・ナルトの視線が・・オレの心を乱していく・・・。

・・・・いつもの冷静な言葉を口に出すことができない・・・・・。



「・・・あのね・・?お兄さんはナルトに帰れ。っていったよね?
  これでもさぁ・・オレ・・暗部なんだけど・・・。
  俺の前に立った奴は・・・みんな死んじゃうんだよ・・?
    ・・ナルトも・・殺される前に帰ってよ!!!
     お兄さんがナルトを痛めつける前に・・さっさと帰ってよ!!!」


驚くほど早い鼓動に・・ようやく自分が興奮していることに気づく・・・・

・・どんなにツライ任務でも・・・決して声を荒げたりなどしなかったのに・・。

・・どんなに強い敵にでも常に冷静に・・対処してきたのに・・・。

なのに・・どうして・・こんなにも自分は・・・・







・・そこまで考えた時・・・ふと、隣に温かさを覚えた・・。

驚いてそちらを見れば、隣にはナルトが座り込み

自分に向けてなにやら缶のようなものを差し出している・・。


「・・なんだ・・?」

「・・あの・・お兄ちゃん・・疲れてるんならさ・・ホラ。あげるってば・・。」

よく見れば缶からは湯気がたっている・・。

・・なにか温かい飲み物らしい・・・。




「・・・おしるこ・・・?」




・・・鼻にかすめる・・甘い香り・・・。

甘いものは・・苦手だったはずなのに・・

不思議と・・心が落ち着くのが分かった・・・。


「・・うん。・・オレ・・おしるこ大好きだってば・・
 でもさ・・お兄ちゃんはさ・・たくさん飲んでいいってばよ・・?」

グイッと缶を前に押し出されて・・・

それを見れば、さらに甘い香りは強く・・体に染みた・・。



「・・オレはね・・甘いものは嫌いなの・・。」

・・冷たい言葉を・・投げかけなければ・・・・

・・・オレは・・おかしくなってしまうから・・・。

早く・・この子から・・離れなければ・・・・・オレは・・・。


「でも!でも!疲れている時は・・甘いものが良いって聞いたことあるってば・・
   だっ・・だからさ・・だから・・・・・」


「・・いいかげんにしろ!!!」


・・・ナルトの言葉をさえぎって・・オレは思わず声を荒げていた・・。

・・今までに・・ないくらい・・・真剣な表情で・・・。











「・・・ッ・・・。」



・・・みるみるうちに・・先生と同じ色の・・青い瞳に涙がたまり

・・それは・・ぽろぽろとあふれ出した・・・。



「・・!!?」









・・止まることなく・・・流れ落ちる涙に・・・






・・なぜか・・心が・・・痛んだ・・・・。









こんな痛みは・・ずっと前に・・忘れてしまっていたのに・・・。







・・・もう・・自分には・・ないと・・思っていたのに・・・。










一つ息を吐いて・・・呼吸を整えてから・・・

・・涙を拭う・・ナルトの方へと向き直る・・・。





「・・・泣くくらいならどうしてオレにかかわるの・・?
  ・・オレは・・最初に帰れっていったハズでしょ・・・?」


・・充分・・冷たい言葉だった・・・


この子は・・もっと・・・泣くだろうと・・思った・・・。

・・オレのことを・・嫌いになってしまうだろうと・・思った・・・。






・・・・けれど・・オレの予想は・・簡単にはずれた・・。







「・・お兄ちゃんは・・殴ったりとか・・そういうの・・しないってば・・。」







そう言った・・ナルトは・・・綺麗な・・・笑顔だった・・・。





「・・オレは・・お前を殺そうとしたよ・・?」

「・・ううん・・お兄ちゃんは・・オレのこと・・殺したりもしないってば・・。
  ・・・だって・・お兄ちゃん・・言ったよね・・・?
   『痛めつける前に帰れ。』って・・・。」

「・・・。」




その・・・瞳は・・・優しすぎて・・・。

・・・なにも言えなくなった・・・。







「他の人は・・そんなこと・・言わないってば・・。
  ・・・・みんな・・何も言わずに・・オレのこと・・殴るってばよ・・。」






「・・・・・お前・・。」






・・その・・・優しい瞳は・・・悲しみに・・歪んでいた・・。

・・・見たことのないような・・・悲しい・・笑顔・・・・・・





「・・・オレ・・分かってるってば・・オレが悪いんだって・・・。
 ・・・オレが・・他の子とは・・違うって・・・。
  ・・・・だから・・オレが悪いのなら・・殴られても・・蹴られても・・・
    ・・・・すっごくすっごく痛くても・・しょうがないんだってばよ・・・。」





・・・こんなに小さな子供なのに・・・


・・・・そんなことを・・いつもいつも・・考えているのか・・・。


・・・・何度も何度も・・我慢して・・・・泣くのだって・・こらえているのか・・。









・・・・・・・・オレは・・・馬鹿だ・・・・。







自分だけが・・悲しい人間だと思いこんで・・・







・・怯えをすべて・・怒りに変えて・・・・






この子を・・・冷たい言葉で・・・傷つけた・・・・。









オレは・・・本当に・・・馬鹿だ・・・。
















ギュッと握りしめた手に・・・ふと、感じた温かさ・・。










顔を上げれば・・そこには・・・自分を見つめる優しい視線があった・・。










「・・・お兄ちゃんの目・・・怖くないってば・・・。
  ・・・すっごく・・・優しい目・・してるってばよ・・。」







・・・・小さな小さな手が・・おそるおそるではあるが・・優しく触れてくる・・。



・・・目の前で自分を見つめる瞳は・・どこまでも温かで・・。









   

・・・涙が・・・あふれた・・・・。













「・・おっ・・お兄ちゃん・・どこか痛いの・・? ・・怪我・・してるのかってば・・?」




・・・どうしてだろう・・・・?




・・どうしてこんなにも・・人を気づかえるのだろう・・・?




・・自分の方が・・ずっと・・苦しいのに・・・・。






「お兄ちゃん・・あの・・大丈夫・・・?」


心配そうに見上げる青い瞳・・。



オレは笑って・・ナルトの頭にそっと手を置いた・・・。



「・・・大丈夫だよ・・。」





顔をパァッと輝かせたナルトはニコッと笑って言った。





「お兄ちゃん・・オレとお友達になってくれる?」




・・・お友達・・・ね・・・。



ちょっと・・困ったなぁ・・・・。




「う〜ん・・お兄ちゃんね・・ナルトとはお友達になれないな・・。
  ・・オレは・・暗部・・素顔を知られてはいけないからね・・・・。」



「・・・あっ・・そっか・・分かったってば・・。」





泣きそうな顔をしているナルトに・・カカシは笑いかけた。








・・どうか・・この子に・・せいいっぱいの・・幸せを・・・。


優しい瞳の少年に・・・・・たくさんの愛情を・・・・・。








「・・大丈夫・・ナルトはきっと・・友達ができるから・・。
  いつかきっと・・お前の優しさを・・分かってくれる友達ができる・・。
   ・・・いい・・?・・お兄ちゃんの顔は・・忘れちゃうと思うけど・・。
  ・・・・これだけは・・忘れないで・・・お前はとっても・・いい子だよ・・?」





言い終わると・・カカシはすばやく印を組み、ナルトの頭にトンッ・・と触れた。

記憶を消す・・禁術・・・。

一部の暗部にしか知らされていない術・・・。


倒れ込むナルトを抱きかかえると・・三代目の元へと急いだ・・。












************





「・・カカシ! お前の担当する新人下忍の一人を紹介したい。」


数年後・・カカシは三代目に呼び出され、新人下忍の紹介を受けていた。



「わざわざ紹介する・・っていうくらいの問題児がいるんですか・・?
  ・・あーあ・・ヤダなぁ・・・。」


ため息をつくカカシに、火影は大きくせきばらいをしながら

扉の向こうへと呼びかけた・・・。



「入ってきてもよいぞ・・。」



・・・扉の向こうから返事は・・・ない・・。


火影は何度も呼びかけるがいくら待ってもその状況は変わらなかった。


「・・まったく。なにをしておるんじゃ・・あやつは・・。」


火影は扉に手をかけて・・・

素早く開けた・・・・・。




ガッシャーーーンッッッ!!!!



辺りには金属製の大きな音・・・。

周りに散らばっているのは大きな金だらい・・・。

間一髪でそれをよけた三代目は張り裂けんばかりの大きな声で怒鳴った。


「コラーーーッッ!!またお前はイタズラばっかりしおって!!!」


扉の向こうからは罠を仕掛けた少年の楽しそうな声・・。


「へっへ〜ん! 気づかない爺ちゃんが悪いってばよ!!
   火影のくせにダッセー!!!」


少し待つように言われ、扉から聞こえる声に耳を傾けていると

少しの間の後・・騒動がおさまった。


「ほら!自己紹介せんか!!!」

「はいはい・・わーかったってばよー。」

三代目につり下げられて・・無理矢理連れてこられたその子供は

不機嫌そうな瞳でカカシを見た。


・・・少しだけ・・怯えたような口ぶり・・・。


・・その青い瞳も・・黄色い頭も・・すべてが昔のままで・・・。



「オレってば・・うずまきナルト・・・。
  ・・初めましてってばよ・・・。」



・・カカシはニコッと笑いながら、差し出された小さな手を・・

・・ギュッと握りしめた・・・。








「・・初めまして。・・はたけカカシです・・。」





















                           END